番外編(川島雄三作品) NEW 2019.5.24
『花影』B 川島雄三監督
1961年 東京映画
今月(5月)、衛星劇場でハイビジョン放送されている、大岡昇平原作の文芸映画『花影』。脚本は菊島隆三。未DVD化。
銀座のバーのホステスの男遍歴と最後に多量の睡眠薬で自ら命を絶つという暗いストーリーなので、
川島映画によくみられる喜劇調の演出や、突然始まるドタバタアクションなどの要素が皆無の、極めて真面目な文芸映画である。
アバンタイトルの多いこの時期の川島映画の中で、典雅なクラシック調の音楽のタイトルから始まる本作は異色作といってよい。
自殺に向っていく主人公を描いたのは、フランスのルイ・マル監督、モーリス・ロネ主演の映画『鬼火』(Le Feu Follet)(1963)
と似ている。あの映画は全篇に使用されたエリック・サティのピアノ曲が印象的だった。
同時期の川島映画の中では、大映作品の、九段の芸者=若尾文子をヒロインとした『女は二度生まれる』(1961)(本作の1本前の作品)に
雰囲気が似ているかもしれない。個人的には本作の方が好みだが。
私が保有している録画DVD(20年くらい前のCS放送の録画)では、画面に出てくる小さい文字が読み取れなかったが
ハイビジョンの綺麗な画像で読み取れる文字があり、それが今回のロケ地紹介(あくまで推定場所)のヒントとなった。
ヒロインの池内淳子演じる、銀座のバー「トンボ」のホステス・足立葉子。
彼女の住んでいる坂道途中のアパートは映画の中で何度も登場する。この場所がどこだか全くわからなかった。
ロケ地のヒントとなったのは以下。
(1)葉子の男の一人、大学講師の松崎(池部良)が、朝、葉子のアパートを出て前の道を歩く。
それを部屋の窓から見ている葉子。赤い郵便ポストの横の木の看板に「洋菓子アルパイン」の文字が読み取れた。
(2)ネットで調べると「洋菓子アルパイン」は昭和24年に赤坂で創業し、平成元年からは北区浮間で営業している実際にある洋菓子店。
(3)その前のシーンで、松崎がいる部屋で窓を開ける葉子。
その時に子供たちの騒がしい声が聞こえ、道を挟んで学校があるらしいことが示される。
(校舎のような建物もかすかに見える、また葉子が部屋の窓を開けるロングショットの手前にバスケットボールのゴールが映る)
(4)グーグル地図とストリートビューで、赤坂で現在学校のある場所を調べていくと、
港区赤坂8丁目の「赤坂小学校」の前の道に、映画に登場する坂道にそっくりな場所を発見。
地下鉄千代田線の「乃木坂駅」と「赤坂駅」の途中。
(5)昭和の地図のアプリで見ると(昭和何年かが書かれていないので特定は困難だが)当時は
現在の赤坂小学校の場所に赤坂高校があったそうだ。いずれにしても学校があった。
坂道の裏手には赤坂中学校、そして防衛庁(現在:東京ミッドタウン)が。
アパートのある場所は当時の地名で「赤坂檜町(ひのきちょう)」。
アパートのあった場所は現在マンションになっている。
前の道幅と木の位置、坂道の感じ(当時とは少し変わっているが)、通りに面して学校があるなどの要素から
おそらくこの場所でのロケーションだと思われる。もちろんアパートの室内はセットだろう。
個人的な話だが、管理者が25年くらい前に勤めていた会社がこの近くにあり、その当時この坂を何度も通っていたことを思い出した。
写真の右が「赤坂小学校」。
画面写真の人物。左=池部良(この場面の木の看板に「洋菓子アルパイン」の文字)、中と右=池内淳子。
何といっても赤い、昔の形の郵便ポストが印象的。
写真の先が地下鉄「赤坂駅」方面。手前が「乃木坂駅」方面。写真の左側に「赤坂小学校」。
画面写真は暗くてわかりずらいが、坂道をゆっくりと走って来る車。